アルバイトの話①(テキ屋)

テキ屋でバイトした時の話です。

アルバイト奮闘記(テキ屋編)

・テキ屋の巻

 

【的屋(てきや)】:祭礼や縁日の境内、参道において屋台を出して食品や玩具等を売る小売商を指す。-ウィキペディアより抜粋-

 

 ある夏休みに、短期のアルバイトでテキ屋を経験しました。いわゆる縁日で見かける屋台の兄ちゃんのような仕事です。アルバイトの面接に行ったとき、社長は人の良さそうな方でした。ただ、このような商売は反社会的な方が関わっていると人づてに聞いたこともありますが、私が働いていた会社はそうではないようでした。まぁ、そういう話はいろいろあるのでしょうが、詳しくは知りません。

 

 私が担当したのは、くじ引きの屋台でした。くじ引きといえば、紐を引っ張って番号や景品が繋がっているタイプを想像されるかもしれませんが、私が扱ったものは少し違いました。
 ボール紙で作ったような小さな箱の中に数字が書かれた紙が入っており、それを引いてそのまま景品がもらえるという、非常にシンプルなくじ引きでした。一回200円から300円でくじを引き、その数字に応じた景品をお渡しする形式でした。
 このような「楽しみクジ」はよく、高額な景品、例えばゲーム機やラジコンを「ウリ」にしているものの、実際には高額な商品が当たらない仕組みになっていることが多いです。私がアルバイトをしていたときも、同業者はそのような方法を取っていました。「夢を売る」と言えば聞こえは良いですが、大人の世界ではこうしたことはよくある話だと思います。
 しかし、私がやっていたくじ引きでは、高額な商品こそありませんでしたが、実際に当たりくじはちゃんと入っていました。
 当たりくじの景品は、例えばプラスチック製のヘリコプターで、ゴム仕掛けで羽が回る仕組みのものや、女の子用のおもちゃの化粧セットなど、少しだけ良い品質のものを用意していました。他にも、はずれ商品と比べると少しだけ価値のあるものを取り揃えていました。
 はずれ商品はプラスチック製のコルク鉄砲やおもちゃの刀、ちびまる子ちゃんのキーホルダー、スラムダンクの下敷き、セーラームーンのカードなどでした。これらは安価ではありましたが、当時の子どもたちにとっては十分に喜ばれるものだったと思います。

 

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 子供は無邪気です。新しいおもちゃを手にしたときのキラキラした笑顔を見ると、こちらまで幸せな気持ちになります。

 

 こうした仕事をする上で、注意しなければならないのは、客である子供たちと仲良くなりすぎないことです。
 子供たちは気さくに話しかけてきますし、少し構ってあげるだけでとても喜びます。しかし、情が移ってしまうと、どうしてもお金が足りなくてくじを引けない子供に同情してしまいます。そこでおまけをしてしまうと、子供たちの間で噂が広まり、状況が手に負えなくなります。さらに、特定の子をひいきしたことで、その子がいじめられる可能性も出てきます。それは絶対に避けなければなりません。

 そんな中、ある鼻を垂らした子供がいました。年齢は4~5歳くらいでしょうか。名前はダイスケといいました。ダイスケは「フヒヒ」「ブキョキョ」と、なんとも独特な笑い方をする子でした。彼は周りの子供たちが鉄砲や刀のおもちゃで楽しそうに遊んでいるのをじっと見ていました。羨ましかったのでしょう。ダイスケは小銭を握りしめて私のところにやってきました。
 しかし、小銭はわずか60円ほどしかありませんでした。
 「お金が足りないよ」と伝えると、ダイスケはわかったのかわからないのかよく分からない表情を浮かべ、後ずさりして走り去っていきました。
 その後もダイスケは何度かやってきました。そのたびに、目に涙を浮かべながら、ほかの子供たちが楽しそうにくじを引いている様子をじっと見ていました。
 夜が更け、子供たちが帰らなければならない時間が近づいてきました。屋台も終わりが近い頃です。
 祭りの客たちが帰り際にお土産を買うことが多く、私の屋台も急に忙しくなりました。次から次へとお客さんがやってきて、私は対応に追われていました。たくさんの人が小銭を差し出してくじを引こうとする中、小さな手が差し出されました。ダイスケです。
 人混みに押されながらも、ダイスケは必死に握っていた小銭を差し出してきました。

 

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 私も昔はこんな子供でした。鼻を垂らして汚くて醜いガキでした。きもい笑い方で笑っていたのも同じです。買ってもらえない物がたくさんありましたが、優しくしてくれる大人はみんな良い人だと思っていました。

 

 私はダイスケが握りしめている小銭を手に取り、周りの子供たちに聞こえるように大きな声で言いました。

 

 「よし、ダイスケ!お金を持ってきたんだな。いいぞ、くじを引け!」

 

 そのときの小銭の額がいくらだったかですか?私には200円に見えました。なにか問題ありますか?
 ダイスケは一転して晴れやかな表情になり、喜び勇んでくじを引きました。

 

 「どうだ、ダイスケ。見せてみろ。」

 

 ダイスケが小さな手で握りしめていたくじには、数字の「1」と書かれていました。
 それは滅多に出ない大当たりでした。

 

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 大当たりだと、おもちゃのヘリコプターや手品セットをもらえる権利があるのですが、ダイスケはそれを受け取りませんでした。

 

 手を後ろに回し、大きく頭を振りながら「イヤイヤ」と仕草で伝えてきました。

 

 「なんだ?これが欲しいのか?」

 

 外れ商品であるプラスチック製の刀を指さすと、ダイスケは「うんうん」と大きくうなずきました。
 そうか、これが欲しかったんだな。私は刀を手に取り、「どりゃー!」と叫びながら抜き打ちの仕草でダイスケを袈裟斬りにする真似をしました。するとダイスケもノリが良く、「うわー!」と声を上げながら切られる演技をして、肩を押さえてふらふらと倒れるような仕草をしました。本当にかわいいやつです。

 

 「ほらよ。」

 

 私は刀を投げてダイスケに渡しました。すると、ダイスケは「クキキ、クココ」と独特な笑い声をあげ、とても嬉しそうにしていました。それを見て私も思わず「ヒヒヒ、クコココ」と笑ってしまいました。
帰り際、ダイスケが友達と楽しそうにチャンバラごっこをしている姿が目に入りました。
今でも縁日は大好きですが、時々このときのことを思い出します。